大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和25年(う)594号 判決

控許人 被告人 越○壮○ 親権者 越○ヨ○

同加○昇○ 弁護人 佐伯正一

検察官 塩田末平

主文

原判決を破棄する。

被告人等を各懲役一年に処す。但し各被告人に対し本裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

被告人越○壮○に対し押収に係る短刀一振(証第一号)を没収する。

原審の訴訟費用は全部被告人越○壮○の負担とする。

理由

弁護人市原庄八の控訴趣意は別紙記載の通りである。

論旨第三点について。

原審の審理判決をした裁判官が、本件に付起訴以前に松山家庭裁判所西条支部の判事として、少年法第二〇条による検察官送致決定をしたことは、所論の通りであるが、その送致決定をしたことは、刑訴法第二〇条の除斥事由に当らないし、またその為に不公平な裁判をする虞があるものともいえないから、忌避の理由にもならない。従つて憲法第三七条第一項に違反しないから論旨は理由がない。

論旨第二点及び第四点について。

原判決は犯罪事実認定の証拠として被告人両名の司法警察員に対する供述調書各四通を挙げているが、記録を見ると、被告人加○昇○の司法警察員に対する供述調書は論旨に指摘する通り五通あつて、原判決が証拠とした四通は五通の内のどれを指すものか明らかでない。従つて原判決はその証拠理由に不備があるものといわざるをえない。原判決は右加○昇○の供述調書四通を、被告人両名が共犯として関係した事実を認定する資料にも供しているものであるから、右違法は被告人両名の判決に影響し、論旨第二点は理由がある。また記録を精査して、本件犯罪事実、被告人等の年齢、経歴、環境その他諸般の情状を考量すると、原審が被告人等を短期一年長期二年の実刑に処したことはその量刑が適切でないと認められるので、論旨第四点も理由がある。原判決は刑訴法第三九七条により破棄しなければならない。

よつて爾余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法第四〇〇条但書により更に次の通り判決する。

(罪となるべき事実)

被告人等はいずれも少年であるが

第一、被告人越○壮○は

(一)  法定の除外事由がないのに昭和二五年三月一九日玉野市宇野駅構内において、刃渡十五糎以上の短刀一振(証第一号)を所持し

(二)  被告人加○昇○外一名と共謀の上、同年三月一七日頃新居浜市住友共同電力株式会社において、同会社所有の電線六百瓩位時価九万六千円位を窃取し

(三)  被告人加○昇○と共謀の上、前同日同市磯浦町高田喜一方前道路上で、同人保管の箱車一台時価八千円位を窃取し

第二、被告人加○昇○は

(一)  被告人越○壮○外一名と共謀の上、同年一月五日頃新居浜市新田町煙草共同販売所において、武田シズエ所有の化粧鏡外二点時価百八十円位を窃取し

(二)  被告人越○壮○外一名と共謀の上、前同日同市同町加藤キヨ方において、同人所有の現金七千円位、煙草百二十個・短靴一足・焼酎一升時価合計一万円余を窃取し

(三)  被告人越○壮○外一名と共謀の上、前記第一の(二)記載の通り窃取し

(四)  被告人越○壮○と共謀の上、前記第一の(三)記載の通り窃取し

たものである。

(証拠の標目)

一、原審公判調書(第一回)中被告人両名の各供述記載

一、被告人越○壮○の司法警察員に対する昭和二五年一月八日附供述調書一通、同じく同年三月二〇日附供述調書(記録八六丁以下及び九四丁以下)二通

一、被告人加○昇○の司法警察員に対する、昭和二五年一月九日附、同年三月二〇日附及び同年三月二五日附供述調書合計三通

一、押収に係る短刀一振(証第一号)の存在

一、武田シズエの盗難届書、加藤キヨ・西原藤吉・高田喜一の各盗難届書謄本

(法令の適用)

法に照すと、被告人越○の所為中短刀所持の点は銃砲等所持禁止令第一条第二条、同令施行規則第一条、銃砲刀剣類等所持取締令附則第三項、罰金等臨時措置法第二条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、窃盗の点は各刑法第二三五条第六〇条に該当し以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条により最も重い判示第一の(二)の窃盗の刑に従い法定の加重をなした刑期範囲内で処断する。被告人加○の所為は各刑法第二三五条第六〇条に該当し、同法第四五条前段の併合罪の関係があるので、同法第四七条第一〇条により最も重い判示第二の(三)の窃盗の刑に従い法定の加重をなした刑期範囲内で処断する。被告人等は少年であるが、刑の執行猶予を言渡す場合であるから少年法第五二条第三項により定期刑を科し、両名を各懲役一年に処し、情状により刑法第二五条を適用して二年間その刑の執行を猶予する。押収に係る短刀一振(証第一号)は判示第一の(一)の犯罪を組成したもので、犯人以外の者に属しないから、刑法第一九条第一項第一号第二項により被告人越○に対し、之を没収し刑訴法第一八一条第一項により原審の訴訟費用は被告人越○の負担と定め、主文の通り判決する。

(裁判長判事 満田清四郎 判事 太田元 判事 森本正)

第三点、原判決は憲法違反又は刑事訴訟法を無視した判決であると思料する。即ち原判決は松山地方裁判所西条支部裁判官矢野伊吉氏が審理判決したものであるが、一件記録を精査するにその第五五頁第五六頁において昭和二十五年四月十五日松山家庭裁判所西条支部裁判官として原審の裁判官矢野伊吉氏が被告人両名の取調を為し、事件を松山地方検察庁西条支部の検察官に送付する旨の裁判(決定)をしておるのであるが、斯の如く右家庭裁判所の裁判官として事実を調査裁判を為し事件の内容を熟知しておる裁判官が公判判事として審理判決を為すは、正に起訴状一本を以つて審理を開始し何等事件の予断を持つていない裁判官において裁判を為す事が新刑事訴訟法の精神であり、前記の如きは新刑事訴訟法の精神に反するものであり、その結果は憲法に所謂公平なる裁判を為す事を要求する精神にも反するものであるから、原審判決を破毀し更に相当の裁判を仰ぐものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例